脊髄小脳変性症1型(SCA1)が起こる新しい遺伝子の調節メカニズム
ベイラー医科大学(米国・テキサス州ヒューストン)のゾービ教授らの研究
2008年10月号のネイチャー・ニューロサイエンス誌に掲載
Nature Neuroscience 11, 1137 - 1139 (2008)


 遺伝性脊髄小脳変性症1型(SCA1)は東北や北海道に患者が多いタイプです。SCA1は、2型(SCA2)、3型 (SCA3, MJD)、DRPLAとともにポリグルタミン病と呼ばれています。これらは、それぞれ病気の原因となる遺伝子は違いますが、発症するメカニズムは共通しています。米国のベイラー医科大学のゾービ教授らは、SCA1発症にかかわる重要なメカニズムを発見し、ネイチャー・ニューロサイエンス誌に報告しました。


 SCA1ではATXN1という遺伝子に異常があり、小脳のプルキンエ細胞という神経細胞が障害されます。異常なATXN1遺伝子からは異常なアタキシン1というたんぱく質が作られ、これが病気を引き起こすのです。
 

私たちのすべての細胞がもっている遺伝子は、たんぱく質の設計図です。遺伝子の情報(設計図)に基づいて、アミノ酸がつなぎあわされて、さまざまなたんぱく質が作られます。しかし、たんぱく質の設計図となっている遺伝子領域は全遺伝子のわずか3%に過ぎず、残りの大部分の遺伝子は何をしているのかわかっていませんでした。ごく最近、このたんぱく質の設計図以外の遺伝子から、マイクロRNA(miRNA)というものが作られ、生体や細胞機能に大変重要な役割を果たしていることがわかってきました。 

簡単に言いますと、これまで無用と思われていた遺伝子からmiRNA(1つではなくいろいろな種類がある)が作られ、私たちの体の中のたんぱく質の産生(多くするか少なくするか、あるいは作らないか、など)を調節しているのです。小脳のプルキンエ細胞の中でもmiRNAが作られ、SCA1の原因となる異常なアタキシン1の産生を抑制しているということがわかりました。 

これまでSCA1はアタキシン1の特別な異常(CAG繰り返し配列の異常伸長)が原因と考えられていました。これは正しいのですが、これ以外に、アタキシン1の別の場所に異常があり、miRNAと結合できなくなったり、あるいはmiRNAの方がおかしくなったりして、アタキシン1の産生を抑制できないといったメカニズムも、病気の発症時期や進行に関与している可能性がでてきました。さらにmiRNAを外から補うことでアタキシン1の産生が抑えられ、SCA1が治療できる可能性もでてきました。 

平井(2008/10/02)