医学部の研究の本質は患者を救うこと

過去、ペスト、結核、天然痘、黄熱病など人類を苦しめた病に多くの研究者が立ち向かい、予防法・治療法を発見し、何千万人、何億人もの命を救ってきました。研究なしに医学の発展はなく、難病に苦しむ患者を救うには研究して治療法を見つけ出すしかなく、大学医学部はこれを遂行するきわめて重要な役割を担っています。これは当然のことのように思えるかもしれませんが、研究は論文で評価されるため、いつの間にか論文を作るために研究し、論文を出版することが主目的になってしまうことが少なくありません。興味があることを研究するのは重要ですが、どういう方向へ研究を進めるか迷ったとき、私は「患者さんに役立つのか」で決めるようにしています。

生命科学は近年、目覚ましい発展を遂げました。1950~60年代には細菌が原因の多くの病が制圧され、最近ではウイルスによる病も抗ウイルス薬が大きな効果を上げています。ガンについても分子標的薬や重粒子線治療により不治の病ではなくなりつつあります。私は、次に治療のブレークスルーが来るのは神経変性疾患であると思っています。神経変性疾患には根本的な治療法がありませんでしたが、最近、アルツハイマー病の治療薬としてNMDA受容体拮抗薬のメマンチンが日本でも使えるようになるなど、明るいきざしが見えつつあります。

しかし、私たちが研究している脊髄小脳変性症を含めて今なお、神経変性疾患に対する根本的な治療法は確立していません。私たちの研究室では脊髄小脳変性症を治療できる病にするために最先端の技術を駆使して一生懸命、研究開発を進めています。

最近の医学部の学生は臨床指向が強く、卒業生の多くが大学を離れ市中病院へ出て行き、そしてその後、生命科学研究には戻って来ません。研究して難病の治療法を見つけてやろうというチャレンジ精神にあふれた若い医師はきわめて少なくなってしまいました。人生は一度だけです。世界の誰も治せない病気の治療法を見つけるといった世界トップレベルの研究は、後回しではなく、今はじめなければできなくなってしまいます。

ぜひ私たちといっしょに世界をリードする研究を行い、難病で苦しむ患者さんを救うことに全力を尽くしてみませんか。


                 群馬大学大学院医学系研究科
                 脳神経病態制御学講座 神経生理学分野


教授