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脊髄小脳変性症3型(SCA3)におけるカルシウムシグナリング異常と治療への道筋
テキサス大学南西医療センター(米国・テキサス州ダラス)のBezprozvanny教授らの研究ジャーナル オブ ニューロサイエンス2008年11月掲載
The
Journal of Neuroscience, 48, 12713–12724 (2008)
遺伝性脊髄小脳変性症3型(SCA3)は、SCA1やハンチントン病とともにポリグルタミン病と呼ばれます。これらの疾患は、アミノ酸の一つであるグルタミンが鎖のようにつながった領域(ポリグルタミン鎖)をもつタンパク質が原因です。病気の人では、ポリグルタミン鎖が異常に長くなり、様々な障害を引き起こします。
Bezprozvanny教授は今回の論文で、SCA3においては、神経細胞内のカルシウムイオンの動きがおかしくなっていることを明らかにしました。これまでに、Bezprozvanny教授はハンチントン病の変異型原因タンパク質が、神経細胞内のカルシウムイオンの動きに影響を与えることを報告していました。神経細胞内では、カルシウムイオンが動くことで、細胞内の様々な部位に信号が伝わり細胞の機能を維持しています。これをカルシウムシグナリングと言います。細胞が正常に機能する上で極めて重要な生命現象ですが、異常な量のカルシウムが動くと細胞死を誘導することがわかっています。今回の論文では、モデルマウスにおいて、SCA3の原因たんぱく質である変異型アタキシン3が、ハンチントン病の原因たんぱく質と同じようにカルシウムシグナリングの異常を引き起こし、細胞死へと向かわせる働きがあることが示されました。さらに、Dantroleneという薬にはカルシウムシグナリングの異常を抑える働きがあることがわかりました。SCA3のモデルマウスにDantroleneを経口投与することで、運動障害が改善し、神経細胞死が抑制されることがわかったのです。ただDantroleneは、①鎮静作用により投薬後の一定時間は運動性が低下すること、そして②経口投与では脳内に運ばれる量が少ないこと、などの改善すべき点が指摘されています。
まとめると、SCA3の病態にカルシウムシグナリングの異常が関与すること、そしてDantroleneのような細胞内カルシウムシグナルの安定化剤がSCA3や他の神経難病の治療薬として可能性があることが示されました。
この報告により、ポリグルタミン病に含まれる他の脊髄小脳変症(SCA1, SCA2, SCA6, SCA7, SCA17)においてもカルシウムシグナリングの異常が関与する可能性があります。またポリグルタミン病ではないSCA14や、SCA15などの原因たんぱく質もカルシウムシグナリングに影響を与えることから、神経細胞内のカルシウムシグナリングの異常は脊髄小脳変性症の病態に広く、深く関わっていることが推測されます。このようなことから、カルシウムシグナリング経路を標的とした研究が、脊髄小脳変性症を含む多くの神経難病の治療方法につながることが期待されます。
堀内、平井(2008/12/09)
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