Mission

人類の未来を切り開く
ウイルスベクターの開発

ウイルスベクター開発研究センター
センター長 平井宏和

ウイルスベクター、特にアデノ随伴ウイルス(Adeno-associated virus; AAV)ベクターはこの15年余りで急速な発展を遂げ、生命科学のあらゆる分野の研究に不可欠なものとなっています。ウイルスベクターを用いた遺伝子治療はすでに臨床応用されており、脊髄性筋萎縮症など難病に対して目覚ましい効果を上げています。ウイルスベクターが生命科学研究や遺伝子治療など幅広い分野で今後ますます重要になるのは間違いありません。

ウイルスベクターに特化して開発・研究を行うウイルスベクターコアは、欧米のトップレベルの大学・研究機関に15年ほど前から設置され極めて大きな実績を上げていますが、同様のレベルのベクターコアは日本には存在しません。我々は20年以上前からウイルスベクターを用いた遺伝子治療研究を行ない、多くの成果を発表して来ました。この間、我々の研究はレンチウイルスベクターからAAVベクターに変わり、細胞種特異的発現ベクターを開発し、血液脳関門透過型のベクターの開発を進め、さらにゲノム編集も取り入れて研究を発展させて来ました。

ウイルスベクター開発研究センター開設5周年

2019年10月にウイルスベクター開発研究センターが開設されて、今年2024年10月で丸5年になります。これまで800件以上のAAVベクターを国内外100箇所以上の研究室に供給し、Nature, Nature Biomedical Engineering, Nature Neuroscience, Nature Communications, Neuron, PNASなど、数多くのトップジャーナルへの論文掲載に貢献することができました。国内企業との共同開発も徐々に増え、現在、6社と共同研究が進んでいます。

米国で2015年に始まった脊髄性筋萎縮症の臨床治験でAAVベクターが使用され、人類史上一人も助かったことがなかった難病を完全に治すことができることが示され、世界に大きなインパクトを与えました。その後も欧米・中国を中心に、次々にベンチャー、メガファーマ、アカデミアの研究者がウイルスベクター開発に参入し、開発競争が激化しています。

やや遅れたものの我が国の企業も相次いでウイルスベクター開発に参入しています。一方で、アカデミは遅れをとっているように思います。企業とアカデミア研究者のウイルスベクター開発のビジョンは異なりますが、欧米でAAVベクター開発が産学共同で進んでいるように、この分野は両者が協力することで、短期間で画期的な発展につながる可能性を秘めています。我が国でも多くの研究者のウイルスベクター開発への参入が望まれます。

遺伝子治療とウイルスベクターの違い

わかりやすく例えると半導体(ウイルスベクター)とそれを使った製品(遺伝子治療)のような関係です。半導体が開発されると、それを使った製品が開発されます。同様に、これまでにない性質を持つ優れたウイルスベクターが開発されると、それを使った生命科学研究や遺伝子治療に多くの企業、研究者が参入します。

我々は、10年ほど前から脳の免疫を担当するミクログリアという細胞への遺伝子導入を可能にするAAVベクターの開発を行なっています。ミクログリアは免疫だけでなく、記憶や学習、脳の外傷やアルツハイマー病などの神経変性疾患の発症と進行にも大きく関わっているため、重要な治療の標的となるのは間違いありません。しかし、未だ大脳皮質のミクログリアに効率的に遺伝子導入できるAAVベクターは開発されていません。

ミクログリアに遺伝子導入できれば、ミクログリアの詳細な機能解明に加えて、ミクログリアが関与するさまざまな脳の疾患に対する遺伝子治療への応用が期待されます。

このように、優れた機能を持つAAVベクターを開発して権利化し、いち早く我が国の生命科学研究者、企業へと供給することが我々のミッションです。今までできなかった技術を開発し、生命科学の現場、企業、患者に届ける、我々はこれを目指しています。

主要な開発ターゲット

● ゲノム編集AAVベクター
● エピゲノム編集AAVベクター
● 細胞種特異的AAVベクター
● 血液脳関門透過型AAVベクター
● 時期部位特異的遺伝子発現AAVベクター

ウイルスベクター開発に関するこれまでの主な研究グラント(平井宏和)

    • 2002-2005年度

      戦略的創造研究推進事業 個人型研究さきがけ(科学技術振興機構)
      小脳失調症関連遺伝子の機能解明と治療に向けた標的遺伝子の導入技術開発
      https://www.jst.go.jp/kisoken/presto/complete/cellfunction/scholar/2/09-10.html

    • 2006-2008年度

      戦略的創造研究推進事業 発展研究(SORST)
      脊髄小脳変性症の根治的遺伝子治療法の開発

    • 2009-2013年度

      文部科学省科学研究費補助金 若手研究(S)
      ウイルスベクターを用いたレスキューマウス作出による遺伝子機能解析法確立とその応用

    • 2014-2016年度

      日本医療研究開発機構AMED: 革新脳
      マーモセット中枢神経系の細胞種特異的、回路特異的遺伝子発現ウイルスベクターの開発
      https://brainminds.jp/research/research10944/

    • 2017-2020年度

      日本医療研究開発機構AMED: 革新脳
      アデノ随伴ウイルスベクターを用いた生体マーモセット中枢神経系の細胞種特異的遺伝子ノックダウン/ノックアウト法の開発
      https://brainminds.jp/research/research10852/

    • 2018-2020年度

      科学研究費補助金 基盤研究(B)
      血液脳関門透過AAVベクターを用いたレット症候群の遺伝子治療とMeCP2機能解析

    • 2021-2023年度

      日本医療研究開発機構AMED: 革新脳
      マーモセット脳機能解明に最適化したアデノ随伴ウィルスベクターの開発と供給
      https://brainminds.jp/research/research13930/

    • 2023年度-

      科学研究費補助金 基盤研究(B)
      ミクログリア特異的アデノ随伴ウイルスベクターの開発と神経変性疾患治療への応用

    • 2024年度-

      日本医療研究開発機構AMED:脳神経科学統合プログラム 個別重点研究課題
      脳統合研究を推進するウイルスベクター技術の整備と高度化
      https://sites.google.com/riken-cbs.org/bm2go-jp/

ウイルスベクターを使用した主要な論文(平井宏和)

  • Murase S. et al.
    Nature Biomedical Engineering, 2023 Nov;7(11):1350-1373.
  • Jin M. et al.
    Nature Communications, 2022 Nov 12;13(1):6880.
  • Ninomiya A. et al.
    Proc Natl Acad Sci U S A, 2022 Nov 8;119(45):e2210645119.
  • Morizawa YM. et al.
    Nature Neuroscience, 2022 Nov;25(11):1458-1469.
  • Inada K. et al.
    Neuron, 2022 Jun 15;110(12):2009-2023.e5.
  • Watanave M. et al.
    Proc Natl Acad Sci U S A, 2022 Feb 15;119(7):e2113336119.
  • Suzuki A. et al.
    Nature Communications, 2022 Jan 11;13(1):41.
  • Oe Y. et al.
    Nature Communications, 2020 Jan 24;11(1):471.
  • Matsumoto K. et al.
    Nature Protocols, 2019 Dec;14(12):3506-3537.
  • Monai H. et al.
    Nature Communications, 2016 Mar 22;7:11100.
  • Nóbrega C. et al.
    Brain, 2015 Dec;138(Pt 12):3537-54.
  • Mendonça LS. et al.
    Brain, 2015 Feb;138(Pt 2):320-35.
  • Uesaka N. et al.
    Science, 2014 May 30;344(6187):1020-3.
  • Nascimento-Ferreira I. et al.
    Brain, 2013 Jul;136(Pt 7):2173-88.
  • Mikuni T. et al.
    Neuron, 2013 Jun 19;78(6):1024-35.
  • Liu HX. et al.
    Nature Communications, 2013;4:1346.
  • Sasaki J. et al.
    Nature, 2010 May 27;465(7297):497-501.
  • Jin D*, Liu HX*, Hirai H*. et al. (equal contribution)
    Nature, 2007 Mar 1;446(7131):41-5.
  • 国立大学法人群馬大学
    国立大学法人群馬大学
  • 群馬大学大学院医学系研究科
    群馬大学大学院医学系研究科
  • 群馬大学大学院医学系研究科 脳神経再生医学分野
    群馬大学大学院医学系研究科 脳神経再生医学分野
  • 群馬大学未来先端研究機構
    群馬大学未来先端研究機構