2006年5月に群馬大学に赴任し、早くも13年目に入りました。そこで研究室が今、どんな状況なのか紹介してみようと思います。
私は大学に入学した18歳から阪神大震災の直前、ドイツに留学するまでの12年間、神戸に住んでいました。毎日、海を眺め、通学では北野の異人館を通り抜け、部活では大学からビーナスブリッジまで走っていました。神戸は慶応3年(1868年)の開港以降、港街として欧米の文化を積極的に取り入れ発展して来ました。神戸はどちらかと言うと伝統や格式よりも、自由で開放的な風土の元、新しいものを寛容に取り入れて自らに融合し発展させて行く気風があります。私自身は特に意識していませんでしたが、今、研究室を見てみると、自由に多様な価値観を受容し融合・発展させる神戸スピリットを感じることができます。
たとえば、研究室には現在、ポスドク以上の研究者が私以外に7名いますが、その出身は東北(仙台)~ 関東 ~ 中部 ~ 近畿 ~ 中国(山口)に及び、出身大学は東大(心理)、東北大(農)、近大(生物理工)、宮崎大(医)、東大(教養)、日本女子大(理)と多岐に渡り、バックグラウンドも様々です。大学院生、テクニシャンを含めても、群大医学部出身者は1人だけで、その1人の大学院生も名古屋で博士号を取得した後の学士編入(当教室でMD-PhDコース)です。(ただし、群大医学部生もMD-PhDコースとして積極的に受け入れており、これまでに3名が学部時代に筆頭著者として国際誌に英文論文を発表しています。今も毎日研究室に通って論文を準備している学生がいます。)
当講座は設立時より医学部生への神経生理学の教育を担当していますので、以前から電気生理学(スライスパッチクランプ)が研究室の特徴です。今もスライスパッチを用いた実験は継続していますが、これと融合する形で免疫組織染色、たんぱく質化学、マイクロアレイ解析、免疫学的解析など様々な手法を取り入れ入れています。中でも近年、飛躍的な発展を遂げているアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの開発、およびこれを用いた研究は研究室の主力になっています。具体的には、血液脳関門透過型のAAVベクターを用いて脳内の細胞種特異的な遺伝子発現を行い、形態、シナプス機能や行動の変化を解析しています。また血液脳関門透過型AAVベクターを用いた遺伝子治療研究を積極的に進めています。このように多様なバックグラウンドを持つ人材が、最先端のツールを積極的に取り入れ、研究室内で融合させながら世界トップレベルの研究を進めています。
群馬大学医学部は都会の大学では考えられない広いキャンパス、研究スペースをもち、生物資源センター、ゲノムリソースセンター、共同機器センターには最先端の共用機器が揃っています。東京から北陸新幹線と上越新幹線のハブ駅である高崎まで、わずか50分で、この恵まれた立地・研究環境のもと、多様なバックグラウンドの人材を受け入れ、自由に新しい手法、考えを受容しながら世界にチャレンジし、さらに世界をリードする研究を続けています。